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青春の砂のなんとはやく

松尾 喬
★藤川修士 ルグレナール 藤川、おぼえているか?
ある日の「発声」のレッスンで"詩"を朗読した時のことを。

青春の砂のなんとはやく
さらさらと
指の間より落つ
………

 残念ながら、あとの句はすっかり忘れてしまった。
 おれはあの頃、詩の朗読などというと「フシをつけて、きれいに読む」みたいなイメージしかなくて……、 いや、他のやつらも皆んな似たりよったりだったな。
ところがおまえが読みはじめると、ちがった。なんというか、一種凄まじいものがあって、途中からぐっと詰まったかと思うと、みるみる涙声に変わり、言葉も何もぐちゃぐちゃになり、もう何を言っているのか分からないんだ。だけど、何かこっちに訴えてくる。
 おれ、ジーンときちゃったよ。
 いや、おれだけじゃなくて、伊東先生も「こういうのが聴きたいんだよ」と賞めてたじゃないか。
 「藤川ってやつが見えてくる」って。
 レッスンが終わって、おれ、伊東先生と駅まで一緒だった。と、伊東先生、ぽつりと言った。「藤川、女のことで何かあるな」おれは、あれっと思った。
 図星だもの。
 「ええ、実はあいつ………」よっぽどおまえと彼女のこと、喋っちまおうかと思った。ノドまで出かかるのを、何とか押さえたよ。
 あの詩の朗読を聴いて、おれ、初めておよえの痛みがわかったような気がした。
 だから表現には体験が大切だ、なんて言うつもりは毛頭ないけど、でも、からだの中を何かが通り抜けない言葉なんてムナシイよな。

 「畳の中に沈んでいくって、比愉でも何でもないんだな。両手で押さえてないと、ホントにずんずんからだがめり込んでいく」
 おぼえているか藤川? おれに言ったおまえのせりふだぜ。
 やっぱりおれには、大したことは書けなかった。
(おれなんかに頼むのがわるいんだ。反省しろ)
 ただ、最後にひと言だけ言わせてくれ。
 "ホンモノになれよな!"

 芝居から足を洗ったおれの願いだ。
(まつお たかし=劇団現代同期)

「ビンタ一発!キッスでお返し!」パンフレットより転載 (C)こん平党
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